▼合気道選手権大会の様子 (写真) 右:藤崎師範(当時 体重70kg~80kg) 左:対戦相手(身長182cm、体重108kg)。合気道選手権優勝経験者。実戦合気道二段、伝統合気道四段、実戦空手茶帯(関東大会優勝経験者)、柔道初段の段位を持つ。 (キャプション補足:藤崎師範はこの相手と3度対戦し、3度勝利したと記録されている)
実戦合気道家・藤崎天敬:実力と哲学を語る(1)
「藤崎さんはいつも動画で相手を圧倒している。本当にそんなに技が決まるのか?まさか、ヤラセでは?」
YouTubeのコメント欄に寄せられたこうした疑問は、単なる技の真偽を超え、武道における強さや稽古のあり方についての問いかけとも言えます。実戦合気道覇天会筆頭師範、藤崎天敬八段。合気道歴32年、身長180cm、体重95kg。過去には一部打撃ありの合気道選手権大会で優勝3回、準優勝1回、優秀賞1回の実績を持ちます。防具付き空手全国大会での優秀新人賞受賞や、極真空手坂本派全国大会への出場経験もあり、修得した武道・格闘技の段位は合計18段。これらの実績を持つ藤崎師範が、寄せられた疑問に対し、自身の考えを語ります。
「組手や試合においては、常に真剣勝負です。」 藤崎師範は明確に述べます。動画で見られる技は、32年にわたる鍛錬の積み重ねによって培われた技術であると説明します。
ただし、YouTubeにアップロードしている動画の中で「演武」「デモンストレーション」「アクション」と明記しているものについては、武道の魅力や可能性を分かりやすく伝えるために、演出的な要素を加えている場合があると補足します。 一方で、組手や試合といった真剣勝負の場においては、一切の脚色なく、自身の修得した技術と経験に基づき、全力で相手と向き合っていると語ります。
その姿勢の原点には、中学時代の柔道部での恩師の教えがあると言います。「相手に加減をするのは失礼にあたる。常に乱取りでは、持てる力の全てをぶつけ、己の限界を超えろ」。この教えは、彼の武道への取り組み方の基礎となりました。稽古では常に全力でぶつかる姿勢でしたが、若さゆえに、その真剣さが周囲との軋轢を生んだ時期もあったと振り返ります。
しかし、多くの経験を積む中で、藤崎師範は武道に対する考え方を深めていきます。真の強さとは、単に力で相手を制圧することだけではなく、相手のレベルに応じて指導し、共に武道の楽しさを分かち合い、成長していくことにあると考えるようになりました。 現在では、初心者への丁寧な指導や、相手の力量に合わせた稽古も、武道の普及や後進育成のために不可欠な要素だと認識しています。これは、かつての全力のみを追求する姿勢から、経験を重ねることでより多角的な視点を持つに至った、武道家としての変化を示しているのかもしれません。
18歳で実戦合気道の世界に入門してから1~2年間は、二段や三段といった先輩方に技を決められる経験も多く、「結構負けました」と当時を振り返ります。しかし、そうした経験が、彼の技術と精神力を鍛える土台となりました。入門から半年ほどで、指導員である初段の先輩には負けなくなったという事実は、彼の急速な成長を示しています。
19歳での初優勝以降、20歳、21歳と優勝を果たし、その才能は開花しました。20歳を過ぎる頃からは組手で敗北することはほとんどなくなり、練習での一本負けは、ここ20年ほど経験がないと述べています。その間、技ありを取られた記憶もなく、有効ポイントは数えるほど。効果ポイントについては、数年に一度取られる程度という事実は、彼の高い実戦能力を示唆しています。
その実力を示すエピソードの一つとして、柔道三段で指導員を務める人物との稽古が挙げられます。その指導員は、藤崎師範との合気道ルールでの稽古後、「柔道で1年間に取られる一本の数より、藤崎先生から1回の稽古で取られる回数の方が多い。私は普段そんなにポイントを取られないんですけどね…」と語ったと伝えられています。
また、交流のあるスポーツチャンバラ世界チャンピオンの河原氏は、「スポチャンで関東大会レベルの相手ならば、10秒以内で倒せます」と語っています。 これに対し、藤崎師範も合気道ルールであれば、覇天会のトップレベルの門下生を除き、本気で組めば10秒以内に立ち関節技で相手を制することができると自己評価しています。覇天会の合気道選手権大会で優勝経験のある者でも、30秒から1分程度で制圧可能だと、実力差について冷静に分析します。
しかし、藤崎師範自身も、気を抜けない相手がいることを認めています。それが、彼が「相当に強い」と評する齋藤賢介三段です。齋藤三段はフルコンタクト合気道選手権大会で優勝2回、準優勝2回、他派合気道選手権大会優勝1回の実績を持ち、中学時代には砲丸投げで区内優勝するなど、高い身体能力を有しています。 藤崎師範は、齋藤三段との対戦では3分間の激しい攻防になると予想します。齋藤三段の防御力に対し、自身の立ち関節技の技量は3倍の差があると分析しています。 これは、過去に行われた総当たり組手で、藤崎師範が8回の一本勝ちを収めたのに対し、齋藤三段は3回だったという結果に基づいています。「ただ、齋藤君は顔面ありのユニファイド合気道ルールの経験が浅いので、そこは課題ですね。フィジカルとポテンシャルは非常に高いのですが」と、藤崎師範は齋藤三段の潜在能力を認めつつ、経験の浅いルールでの課題も指摘します。
全盛期とされる30歳頃、他流派の合気道関東大会新人戦で優勝した若手選手が、池袋の大道塾合気道クラスで行われた藤崎師範の組手を見て、その技の決まり方に疑問を持ったことがありました。「本当に、あのように技が決まるのか」。 その問いに対し、藤崎師範は言葉ではなく、乱取りで応えました。結果は、約2分間で12回の一本勝ち。小手返し、肘締め、腕絡みなど、多彩な技で相手を制しました。 その場には、覇天会の試合で2度の優勝経験を持つ覇天会三段・大道塾二段の選手も同席していましたが、その大学生との乱取りでは有効3回に留まったとのことです。この力の差は、藤崎師範の攻撃力の高さを示唆しています。乱取り後、大学生は「うちの流派には、先生のように技を極められる人は、おそらくいないでしょう」と感想を述べたといいます。
しかし、藤崎師範は自身の実力について、関東新人戦レベルの相手との比較であり、全国にはさらに高いレベルの実力者がいること、またルールの違いも考慮すべきであり、自身の力が絶対的なものではないことを認識していると語ります。
(その2へ続く)
実戦合気道家・藤崎天敬:実力と哲学を語る(2)
そして、視聴者からさらに具体的な問いが寄せられました。「いつも組手では相手を圧倒しているのに、花車勇武先生(伝統空手組手日本一4回、和道流ワールドカップ3位)との伝統空手組手では、なぜそうならなかったのですか?」
この問いに対し、藤崎師範は率直に答えます。「花車先生は、空手という武道において、トップレベルの実績を持つ方だからです。私は伝統空手の組手は全くの未経験です。そんな私が、日本一に四度輝き、世界の舞台で活躍されてきた花車先生に対し、空手ルールで対等に渡り合うことは現実的ではありません。」覇天会は打撃を取り入れた合気道ですが、空手道の専門家である花車先生に対し、空手ルールで勝つための専門的な鍛錬を積んでいるわけではない、と説明します。「端的に言えば、花車先生が非常に強いこと、私にとっては初めてのルールであること、そして何よりも専門とする武道のジャンルが異なることが理由です。」
一方で、花車先生との交流では、互いの専門分野を尊重し、合気道の乱取りも行われました。その際、花車先生は藤崎師範の合気道の技術に対し、「凄かった」と評価の言葉を述べたと記録されています。異なる武道の高いレベルを知る二人が、互いの技術に触れ、その価値を認め合った。そこには、単なる勝敗を超えた、武道家同士の交流があったと言えるでしょう。
年齢的には円熟期を迎えつつある今、藤崎師範は、次世代の育成にも目を向けており、「圧倒的な強さを持つ後輩の誕生を心待ちにしています」と、未来への期待を語りました。