合気道は実戦で通用するのか? 覇天会・藤崎天敬師範に聞く有効性と現代的価値【第一部】

 

「合気道は、実戦の場で通用するのだろうか?」 武道や格闘技に関心を持つ多くの人が、一度は抱く疑問だろう。流麗な体捌きや相手の力を利用する「合気」の理合といった洗練されたイメージの一方で、実戦での有効性については様々な意見が存在する。

この問いに対し、実戦合気道 覇天会を主宰する藤崎天敬師範が、長年の指導経験と探求に基づき、合気道が現代において持つ価値と可能性について見解を述べる。

 

「実戦」の定義が有効性の評価を左右する

――合気道は実戦で使えるのでしょうか?

 

藤崎師範: その問いへの答えは、「実戦」という言葉をどう定義するかによって異なります。

もし「実戦」を、予期せぬ襲撃から身を守る「護身術」と定義するなら、合気道、特に打撃や試合形式を取り入れた「実戦合気道」を深く修練した者は、有効性を発揮する可能性があると考えられます。

一方、「実戦」を、定められたルール下で行われる「競技格闘技」、例えば総合格闘技(MMA)のようなものと捉えるならば、合気道の技術のみで対応するのは難しい面があるでしょう。なぜなら、MMAには、合気道が本来想定していない打撃や寝技などの技術・戦略が含まれるためです。

 

――覇天会が採用する「ユニファイド合気道ルール(顔面への手刀攻撃を認める)」は、より実戦に近い状況を想定しているということですね?

 

藤崎師範: はい。顔面への攻撃をルールに加えることで、より現実的な状況に近い攻防を稽古で経験できます。これにより、突発的な打撃への対応能力や、相手の隙を突く攻撃など、護身術としての実用性を高める上で重要な実践的技術を磨くことが可能になります。

 

護身術としての有効性:打撃への対応力と立ち関節技

――護身術という観点から見た合気道の有効性について、詳しく教えていただけますか?

藤崎師範: 護身術という観点から見ると、合気道は有効な選択肢の一つとなり得ます。特に、覇天会が提唱するような実戦合気道では、打撃を捌く技術と立ち関節技が重視されており、これが護身において強みとなり得ます。

 

第一に、合気道の体捌きは、相手の攻撃力を受け流し、無力化することを目的としています。これにより、打撃の威力を直接受けずに、逆に相手の体勢を崩すことが期待できます。

第二に、合気道の関節技は、相手の動きを制する上で効果を発揮します。特に立ち関節技は、相手に深刻なダメージを与えずに制圧できる可能性があり、過剰防衛のリスクを抑えたい護身の状況に適している場合があります。

 

さらに、合気道の「相手の力を利用する」という理念は、体格差や筋力差がある相手、あるいは複数の相手に対応する際にも応用できる可能性があります。相手の力を利用し、少ない力で制することを目指すのが合気道の特徴と言えるでしょう。

 

喧嘩への応用:非推奨だが、自衛手段にはなり得る

――いわゆる「喧嘩」のような状況では、合気道はどのように役立つのでしょうか?

 

藤崎師範: まず、合気道は積極的に争いを求める「喧嘩」のための武道ではありません。その精神は、対立を避け和合を目指す点にあります。

しかし、不本意に争いに巻き込まれ、身の安全を守る必要が生じた場合、実戦合気道で培った体捌きや立ち関節技は、攻撃から身を守り、危険から距離を取るための有効な手段となり得ます。

目的は「喧嘩に勝つ」ことではなく、あくまで「不測の暴力から身を守る」ことにあると考えるべきでしょう。

 

異種格闘技戦における相性:打撃系への対応と寝技系の課題

 

――他の武道や格闘技との対戦、いわゆる異種格闘技戦を想定した場合、相性はいかがでしょうか?

 

藤崎師範: 打撃主体の格闘技(空手、拳法など)に対しては、体捌きで攻撃をかわし、接近して投げや関節技に繋げることで対抗できる可能性があります。相手の得意な間合いを避け、自身の有利な状況を作り出す戦略が鍵となります。

一方、組み技、特に寝技主体の格闘技(柔道、レスリングなど)に対しては、打撃を有効に使えれば対抗の余地はあるものの、一度寝技の展開に持ち込まれると不利になる可能性が高いと言えます。

 

総合格闘技(MMA)における有効性:限定的だが要素としての可能性も

 

――近年、世界的に人気の高い総合格闘技(MMA)のリングでは、合気道はどの程度有効だとお考えですか?

 

藤崎師範: 現在の一般的なMMAルール下では、合気道の技術がそのまま主戦力として通用する場面は限定的と言わざるを得ません。

主な理由として、MMAではダメージを与えることが勝敗に直結するため、合気道の「相手を傷つけずに制圧する」という理念や技術が評価されにくい点が挙げられます。また、寝技の攻防が許容されるルールでは、専門的な寝技技術を持つ選手が有利になる傾向があります。

 

ただし、MMAを構成する技術の「要素」として見れば、部分的に応用可能な点もあります。実戦合気道には打撃や立ち技主体の組み技が含まれるため、他の格闘技と組み合わせることで、選手の技術の幅を広げる一助にはなり得るでしょう。しかし、MMAの主要な技術基盤として実戦合気道を選ぶ理由は現状では見いだしにくい状況です。実戦合気道は護身術としての有効性を主眼としており、MMAとは目的が異なると言えます。

 

「試合ができない」は過去の認識:実戦合気道の戦略性

 

――藤崎師範が考える、実戦合気道の魅力とは何でしょうか?

 

藤崎師範: 実戦合気道には様々な魅力があります。かつて合気道には「試合ができない」「危険すぎる」といったイメージもありましたが、状況は変わりつつあります。現代の実戦合気道、例えば覇天会のユニファイド合気道ルールでは、安全性を考慮しつつ、合気道の技術で競う試合が可能になっています。

 

そして、多彩な立ち関節技とそれを巡る攻防の戦略性は、実戦合気道の特徴的な魅力の一つです。相手の動きや力、重心を読み解き、最適な技を選択・実行するプロセスは、知的な駆け引きの要素を含んでいます。もちろん、習熟した打撃への対応技術と組み合わせることで、護身術としての有効性も期待できます。

 

空手との比較:相互尊重と実戦合気道の可能性

 

――しばしば比較対象とされる空手と比べて、どちらが「強い」のでしょうか?

 

藤崎師範: それは一概には言えません。武道や格闘技の「強さ」は流派やスタイルだけで決まるものではなく、個々の修練度や能力に大きく左右されるからです。

重要なのは、合気道と空手が互いの長所と特性を認め、尊重し合いながら、共に発展していく姿勢だろうと考えます。異なる武道・格闘技間の相互理解が、武道界全体の発展に繋がるでしょう。

その上で、ルールに縛られない実戦的な状況を想定した場合、覇天会のユニファイド合気道ルールで培われるような技術は、空手に対しても有効な対抗手段となり得ると考えています。打撃を捌き、バランスを崩してからの関節技や投げは、熟練した空手家にとっても警戒すべき技術でしょう。

ただし、競技人口の面では、空手に比べて合気道、特に実戦合気道はまだ少ないのが現状です。この差はトップ選手の層の厚さにも影響するため、競技人口の拡大とレベル向上は今後の課題です。

 

未経験者へのメッセージ:合気道の門戸は開かれている

 

――最後に、これから合気道を始めたい、あるいは関心を持っている方々へメッセージをお願いします。

 

藤崎師範: 合気道は、年齢や性別、運動経験を問わず、多くの人が始めやすい武道の一つです。覇天会でも武道未経験者を歓迎しています。

合気道の稽古では、体力や技術の向上だけでなく、礼節や他者を尊重する精神も学ぶことができます。加えて、実戦合気道においては、打撃への対応力や戦略的な立ち関節技といった護身に繋がる技術を身につけることも目指せます。武道の奥深さ、競技としての知的な面白さ、そして自己防衛能力の向上を同時に追求できる可能性があります。

少しでも興味を持たれた方は、ぜひ一度、覇天会の道場を見学するなどして、合気道の可能性や稽古による自身の変化を体験してみてほしいと思います。

 


【編集後記】 今回の藤崎天敬師範へのインタビューは、「合気道は実戦で使えるのか?」という問いに対し、「実戦」の定義によって答えが異なるという視点を提示した。藤崎師範は、自身が指導する実戦合気道について、護身術としての有効性、打撃への対応力、戦略的な立ち関節技といった特徴を語った。同時に、他の武道・格闘技への敬意と、武道界全体の発展を願う姿勢も印象的であった。

 

覇天会では、現代的な実戦合気道を学ぶことができる。護身術に関心がある人、武道の新たな側面を探求したい人、知的な駆け引きのある格闘技に興味がある人は、見学や体験入門を検討するのも良いだろう。